合成洗剤の歴史

■ 合成洗剤以前の合成界面活性剤 1834年、石けん以外の最初の合成界面活性剤が...

■ 合成洗剤以前の合成界面活性剤

1834年、石けん以外の最初の合成界面活性剤が、ドイツのルンゲによって作られました。 これはオリーブ油に濃硫酸を作用させてアルカリで中和した、硫酸化油というもので、 洗浄力はあまりないのですが、染料を分散させる性能が優れていたので、トルコ赤染に使われて「トルコ赤油」と呼ばれました。

続いて1896年、ヒマシ油の硫酸化油が作られました。「ロート油」と呼ばれて、今日でも染色に使われています。

■ 合成洗剤の誕生と発展

洗浄用の最初の合成界面活性剤は、1917年にドイツで石炭から合成されたアルキルナフタリンスルホン酸塩でした。ナフタリンに濃硫酸を作用させて作られたもので、これが、世界初の合成洗剤ということになります。当時のドイツは、第一次大戦(1914~1918年)で経済封鎖を受けて食用油脂が非常に不足していたので、油脂に頼らない洗浄剤を開発する必要に迫られていたのです。しかし、このアルキルナフタリンスルホン酸塩は、洗浄力が劣っていたので、大戦が終わると再び石けんが使われるようになりました。

1928年、ドイツのベーメ社によって、アルキル硫酸エステル塩(AS)が開発されました。天然の動植物油脂から作られた高級アルコール(炭素数の多いアルコール)に濃硫酸を作用させて作られたものです。洗浄力があって洗剤としての性能が良かったので、アメリカのデュポン社とプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社により、1932年に家庭用合成洗剤「ドレフト」として発売されました。これが、世界最初の家庭用合成洗剤です。

1933年、ドイツのI.G.社によって、アルキルスルホン酸塩(SAS)アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)が開発されました。これらは、石炭や石油から作られるため、食用油脂に頼らない実用的な合成洗剤の第1号となりました。1936年にアメリカのナショナルアニリン社がABSの製造をはじめ、石けんの代替として軍需用に使われました。1943年にナショナルアニリン社とモンサント社がABSを洗剤として売り出し、各社も追随しました。そして、第二次大戦中にドイツで開発されたビルダー(助剤)の技術を加えて、第二次大戦後の石油化学の発展に伴い、洗剤と言えばABSを指すほどまでに急速に普及しました。アメリカでは、1953年に合成洗剤の生産量が石けんの生産量を上回りました。戦時中は軍需用に大量に消費されていた石油が、戦後は安価に使えるようになったために、石油化学工業が発展したのです。

日本では、1933年にドイツから技術を輸入して、ASの製造が始まりました。家庭用合成洗剤としては、1937年(昭和12年)に発売された、高級アルコール系中性洗剤「モノゲン」が第一号です。弱アルカリ性合成洗剤は、1951年(昭和26年)にはじめて発売されました。これはABS洗剤でしたが、当初はABS洗剤はあまり伸びず、高級アルコール系洗剤が先行しました。しかし、1959年(昭和34年)頃からは、ABSが日本の合成洗剤の中心となりました。1950年代半ば以後、電気洗濯機の普及に伴い、合成洗剤が急速に普及しました。1963年(昭和38年)には、合成洗剤の生産量が石けんの生産量を上回りました。

■ 合成洗剤のソフト化

このようにして、大量に使用されるようになったABSは、しかし、アルキル基に枝分かれ構造を持っていたため、極めて分解しにくい物質でした。(生分解が困難という意味で「ハード型」と呼ばれます。)1953年頃から、アメリカやイギリスで、下水処理場の水が泡だって下水処理が困難になるという問題が起こり始めました。日本でも1961年(昭和36年)ごろから河川の発泡が見られるようになり、大きな社会問題となりました。その結果、アルキル基の枝分かれ構造のない直鎖化合物(生分解が困難ではないという意味で「ソフト型」と呼ばれます)を用いた洗剤への転換(ソフト化)が進められました。アメリカでは、1965年に洗剤のソフト化率が95%に達しました。日本でも、1971年(昭和46年)に洗剤のソフト化率が97%に達しました。現在、日本ではABSは使用されていません。

ソフト型洗剤の成分として用いられた界面活性剤は、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)が主でしたが、他にアルキル硫酸エステル塩(AS)アルファオレフィンスルホン酸塩(AOS)ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩(AES)などがあります。

■ 洗濯用以外の合成洗剤の誕生

日本では、1950年代中頃に高級アルコール系シャンプーが登場しました。当初は粉末状のシャンプーでした。 1959年(昭和34年)には台所用洗剤が発売され、1960年代に入ると住居用洗剤も発売されました。 台所用洗剤も、当初は粉末でしたが、後に液体洗剤が発売されました。当時、回虫が多かったこともあり、食器だけでなく野菜や果物も洗剤を使って洗う習慣が普及しました。

■ オイルショックと洗剤パニック

1973年(昭和48年)10月、第4次中東戦争が勃発。アラブ産油国が原油の生産制限を行ったため、石油価格が暴騰しました。第1次石油危機(オイルショック)です。このとき日本では、流言飛語に惑わされた人々が洗剤の買い占めに走り、洗剤パニックと呼ばれました。翌1974年(昭和49年)には、それまで年々増えつづけていた粉末合成洗剤の販売量が、はじめて大幅に減少しました。前年に買いだめした影響ももちろん大きいのですが、「省エネ」が流行語にもなったように、人々の間に資源を大切にしようという気運が芽生えたからでもありました。洗剤メーカーも、省資源に対応して小型化洗剤を発売しましたが、しかしこれも一時のブームに終わり、また大型洗剤に戻ってしまいました。

■ 無リン化

ハード型からソフト型への転換が一段落した頃、新たな環境問題として、河川、湖沼や海の富栄養化と合成洗剤とのかかわりが注目されるようになりました。(→富栄養化の項を参照。)洗濯用合成洗剤の助剤としてトリポリリン酸塩が使用されていたことから、合成洗剤が富栄養化の原因の一つとして問題視されるようになりました。

湖沼の富栄養化問題は、1965年ごろから北ヨーロッパ、アメリカ、カナダで起こりました。日本では、1969年(昭和64年)に琵琶湖で初めての淡水赤潮が起こり、1972年(昭和47年)には瀬戸内海で赤潮の大発生があり、大きな社会問題となりました。1980年(昭和55年)に琵琶湖富栄養化防止条例が、1982年(昭和57年)に霞ヶ浦富栄養化防止条例が施行され、有リン洗剤の販売・使用が禁止されました。洗剤メーカーは無リン洗剤の開発に取り組み、1973年(昭和48年)には第一号の無リン洗剤が発売されましたが、コストや使い勝手の面から普及しませんでした。1980年(昭和55年)に、リン酸塩の替わりにゼオライトを配合した無リン洗剤が発売され、これは消費者に受け入れられて普及し、現在日本では、家庭用洗剤はほぼ100%無リン化されました。

■ 洗剤のコンパクト化と最近の傾向

コンパクト化洗剤は、オイルショック後に一度はすたれてしまいましたが、1987年(昭和62年)に新しいコンパクト洗剤が発売されました。今度は、持ち運びが楽で置き場所を取らないことが人気を呼び、ヒット商品となりました。その後、柔軟仕上げ剤や台所用洗剤もコンパクト化されました。今日では、洗剤の生産量の伸びは、ほぼ飽和状態になっています。浴用では、それまで固形石けんが根強く支持されていましたが、ボディシャンプーが普及しはじめ、1990年代以後、浴用石鹸の生産量は減少傾向をたどっています。

参考資料:

みんなで考える洗剤の科学、井上勝也編、研成社、1987

活性剤の化学、井上勝也・彦田毅著、裳華房、1991

洗たくの科学、花王生活文化研究所編、裳華房、1989

日本石鹸洗剤工業会ホームページ http://www.jsda.org/top.htm

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