前号で紹介した家人も、長い間合成洗剤を使っていました。そして「私は手性が悪い」(正しい意味での手性ではなく、手の性質位の意味)といってあきらめていました。手荒れがひどいだけでなく、親指の爪がちぢこまってぶざまな形になっており、医者に爪水虫という病気だといわれておりました。
ところがせっけんに切りかえた年から、手荒れはまったくなくなり、冬でもクリーム類は使わなくてすむようになりました。ただ爪だけは数ヶ月治らなかったので、やはりこれは洗剤のせいではないのだろうといっていたのですが、何年間も薬を塗りつづけていて治らなかった爪が、知らない間にきれいに治ってしまって、びっくりしていました。
近所の80歳になるお婆さんで、冬になると手にヒビが入って痛かったり、夜中に手がかゆくなって眠れなかったりして苦しんでいる人がいました。とにかく食器だけでも第一種固形せっけん(弱アルカリ性で香料も色も添加していないせっけん)で洗いなさいとすすめたら、三日目に「この手を見てください」と喜んで喜んで報告にきてくれました。私はスライドを作るつもりで、写真をとる準備をしていたのですが、あんまり早く治ってしまって、かえってガッカリしてしまいました。
このお婆さんは、さっそく洗たくも粉せっけんに変えてくれましたし、今では「もうママレモンなんで見るのもいやだ」と、しんそこ怒っています。
ここに出てくる第1種固形石けんというのは、消費者が要望して作ってもらった石けんです。この頃、多くの石けん工場が合成洗剤に押されてつぶれていったなかで、頑固に石けんを作り続けてきた四日市の暁石鹸(株)を見つけ、私たちが色々注文をつけて本当に良い石けんを作ってもらったのです。当時暁石鹸は浴用石けんも作っていたのですが、そこから着色料(食紅)と香料(参照)を抜かしてくれと頼んだのです。
暁石鹸としては、そんな石けんは売れない、だいいちどんな名前で売ったらいいのか分からない・・・とずいぶん難色を示しました。でももし作ってくれたら私たちが売りますと言って作ってもらったのが、第1種固形石けんオリブです。
最初は変色したり変形したりしましたが、原料をどんどん良くしていって、素晴らしい浴用石けんを作ってくれました。この石けんはあるドイツ人が、これは一個5000円位するだろうと言った位のものです。
現在では第1種という用語はなくなりましたが、商品名として残してあります。通称は浴用オリブです。
※このコーナーでは、石川貞二さんの文章をそのまま掲載しています。当「石鹸百科」とは異なる見解が含まれていることがあります。