人の健康については多くの人が研究し、それぞれの立場で有害と言ったり、あるいは無害と主張したりして、論争が絶えなかったのですが、こと環境に関しては合成洗剤メーカー側も無害とは言えず、おかしな詭弁でごまかして来ました。
例えば「合成洗剤で魚が死ぬのは、鰓に合成洗剤が付着して呼吸が出来なくなり窒息死するのであって、合成洗剤が毒だからではない。肺呼吸している哺乳類には全く関係ない」といろいろな所に臆面もなく書いています。ウニが死ぬのも人とは関係ないと言い切ります。環境問題に関しては完全に無知をさらけ出しています。
私が本格的にウニ卵の発生(受精卵が分裂を始め、親と同じ形になるまでの過程。それ以後は成長)で合成洗剤の急性毒性を調べ始めたのは、1974年からですが、それより前、既に合成洗剤による環境への影響は、いろいろな研究がされていました。1967年、藤谷超(まこと)氏は、ABSが魚の味蕾を破壊し味覚を損なうと発表しています。1973年、四竈(しかま)安正氏は、0.1ppm の海水中では鯛の卵は孵化するものの、奇形がたくさん出ると報告しています。
ウニ卵の発生で合成洗剤の毒性を調べた報告には、1974年7月号の『サイエンス』に掲載された東京都立大学の磯野直秀教授(当時)の実験があります。教授は「1971年1月、当時問題になりかかっていたPCBがウニの初期発生に及ぼす影響を知ろうと実験を計画したが、困ったことにPCBは水にとけない。そこで、たまたま身近にあった界面活性剤のアルキルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩(ABS)を用いてPCBを海水に溶かしこもうと考え、ABSの無作用レベルを知るための予備実験を始めた」(原文のまま)。そしてABSがウニの初期発生に大きな影響を与えることに気付くのです。PCBよりももっと身近にあり、ごく普通に過程で使われているABSの環境問題に危機を感じます。
そのころ私もウニ卵の発生で合成洗剤の毒性を調べ始めたのですが、これはあくまでも初期の発生に関する急性毒性であり、もっと薄い海水で異常が見られなかったら無作用レベルと考えていいとは言えないことに、最近気付いています。俗に言う環境ホルモン(外因性内分泌撹乱物質)としての、毒性には気付いていなかったのです。
※このコーナーでは、石川貞二さんの文章をそのまま掲載しています。当「石鹸百科」とは異なる見解が含まれていることがあります。