4年程前に釧路に呼ばれて講演をした事がありました。その時地元で石鹸を作っている小さな工場のオーナーから「昨年釧路で講演をしたシャボン玉石鹸の社長が、炭酸塩の入っている石鹸は有害だと言いましたが、炭酸塩は本当に有害なのですか。」と聞かれ、これは由々しき問題だと思いました。その後あちこちで同じような問題を聞かされ、放置してはいけないと思っていたところ、昨年『生活と科学社』の猪ノ口社長と出会いました。そしてこの問題はとことん究明しようと覚悟を決めました。
実は昨年6月、シャボン玉石鹸を支持しているF氏と出会った時、「貴方は炭酸塩のことをどう考えているのか」と聞いたところ「炭酸塩は昔から使われているし、何の問題もないでしょう」というので「では何故シャボン玉石鹸をそんなに支持するのか」と問い詰めても「炭酸塩のことなど大した問題ではない」と言うだけで、返事にもならないのです。私は「今まで真面目に石鹸運動をして来た人達にとっては大問題なんですよ」と言って別れましたが、なんとも不愉快でした。
今私が考えているのは、石鹸と炭酸塩の関係は、食べ物と食塩の関係に似ているという事です。食べ物に食塩を入れなかったら、不味くて食べられない。食塩のとりすぎは健康に悪いとは言うものの、全く食塩なしでは却って健康に悪いでしょう。ただ腎臓に障害のある人は、食塩をとってはいけないので、そういう人達のために無塩醤油という高くて不味い醤油があります。
洗濯石鹸から炭酸塩を抜いてしまえば、高くて、洗浄力が弱く、水に溶けにくい石鹸になります。絹・毛糸洗いだけの為なら炭酸塩はないほうがいいでしょうが、木綿・化繊洗いに炭酸塩は欠かせない添加物です。(多すぎると問題なのも食塩と同じです。)絹・毛糸洗いにはそれ専用の粉石鹸もありますし、少量の洗濯物なら浴用の石鹸を溶かして使えば良いのです。更に炭酸塩(炭酸ナトリュウム)は、食品添加物でもあり、環境にも問題はありません。人にとって食塩は大切なように、洗濯石鹸にとって炭酸塩は大切なものなのです。その辺をしっかり認識して、無添剤の洗濯石鹸は絹・毛糸用に置いといて、普段はもっと使い易い普通の石鹸を使いましょう。
2000年1月19日
※このコーナーでは、石川貞二さんの文章をそのまま掲載しています。当「石鹸百科」とは異なる見解が含まれていることがあります。