石けんの欠点として言われている事に、環境に出たとき水に溶けない金属石けんになって、公害源になるというのがあります。これこそ頭で考えた理論で、現実を見ないで言っている証拠です。石けん滓(金属石けん)がたまってヘドロになると言う人がいますが、現実にそういう現場を見たことはありません。
一度(もう20年も前のことですが)市内の或る保育所で、石けんに切り替えて暫くしたら合併浄化槽の最初の貯水槽(地形の関係で)のポンプが故障したと言ってきました。調べてみたら、底に白いものが溜まっていて、ポンプが埋まってしまっていました。これが石けん滓だとしたら、石けんを薦めた私の責任ですから、何とか解決しようと思いました。
そこでこの白い粘土状のものを、当時静岡大学工学部教授だった大木昭八郎さん(合成洗剤追放運動の仲間)に送って、正体を調べてもらいました。結果石けん滓は少なくて、殆どただの脂と判明しました。合成洗剤を使っていた時は、油脂は洗剤に溶けていたため、こうした問題は無かったのですが、石けんは薄まると油脂を溶かす力が無くなり、その為脂が分離して溜まってきたものと分かりました。そこで貯水槽のポンプアップを止めて、上澄みを入れる水槽を増設して、そこからポンプアップすることにしました。その後出来るだけ油脂を流さないようにして、もし貯水槽の底が汚れてきたら、掃除するようにしました。これによって、合成洗剤を使っていた時に、浄化槽に流れ込んでいた油脂が除去でき、浄化槽の機能も上昇しました。
石けんが環境に出たら、水に溶けない金属石けんになることは間違いありません。ただこれが公害源ではないだろうと常々考えていました。金属石けんというのは、脂肪酸カルシウムや脂肪酸マグネシウムですから、水棲動物の餌になっても毒ではないと思っていたので、(常々言っているように頭で考えていても駄目なので)退職後ではありましたが、鳥羽市水産研究所に頼んで実験させてもらいました。
海底の有機物を餌にしているナマコ10個を入れた1トン水槽に、洗濯用粉石けん100gをぬるま湯に溶かしてから注ぎいれ、良く掻き回します。海水は真っ白に濁り、やがて底に金属石けんとなって沈みます。1週間後には底の金属石けんは殆ど無くなり、ナマコの体重は1個当たり6g増えていました。公害源と言われている金属石けんは、こうした動物の餌になり、栄養になっていることがはっきりしました。
同じようにナマコ10個入れた1トン水槽に、洗濯用の粉合成洗剤を石けんの半分50g溶かすと、30cm位の凄い泡が立って水槽の縁からこぼれそうになります。そして数時間後には、カチカチになって死んでしまいます。天然では現実にそんな濃さはあり得ないと反論する人がいることは、目に見えていますが、私の言いたいことは合成洗剤は毒だけど、石けんは動物の餌になり栄養になるという事実です。合成洗剤は50ppmですが、もっと薄くしても(例えば現実にありうる1ppmまで)長い時間のうちには影響がでるでしょう。
金属石けんが沈殿しないで、海水中に浮遊している場合(波の荒い時など)どうなるかは、次回に譲ります。
※このコーナーでは、石川貞二さんの文章をそのまま掲載しています。当「石鹸百科」とは異なる見解が含まれていることがあります。