(2)で名古屋大学理学部菅島臨海実験所(以下臨海)について書きましたが、そこで色々面白い事がありました。その当時(1990年頃)猛烈な勢いで広がっていた外資系の合成洗剤に、(はっきり言えば)アムウェイの台所用洗剤ディッシュ・ドロップがありました。私がまだ水産研究所にいた頃にも調べて、相当強い毒性があると発表した事があり、ディストリビューターという末端のセールスマン達から、随分抗議の電話が来ました。その人達に元の文献を送ってやると、それっきり黙りますが、大本の日本アムウェイからは一度も抗議はありませんでした。
しかしその後も相変わらず無公害といって売っているので、臨海に頼む合成洗剤の中にディッシュ・ドロップ(以下D・D)も加えておきました。前述のように、二回に分けた前半の15人の学生の中で、自分の家がアムウェイを使っていると言う女子学生の一人がD・Dを選び、もう一人の石けん派の女子学生が粉石けんを選びました。二人は仲良しでした。普通午後から実験を始め、ウニ卵の受精率を調べ、卵割が始まるのを確認したら、もう翌朝孵化率を調べるまですることもなく、メシ食って寝てしまえばいいわけです。
夜中と言うか明け方の3時頃、ふと目覚めた林教授が、実験室の物音に気付いて行ってみると、二人の女子学生がまだ何かしていました。「君達今まで何してたの?」と聞くと、「石けんを選んだ方はすぐに実験が終わるのに、D・Dを選んだ方は薄めても薄めても受精しない、とうとう1億分の1まで薄めなくてはいけないと言う結果になり、最初の濃度の1万分の1で受精した石けんに比べて、信じられない・・・・実験の仕方が悪いのだろうと3回やり直して、やっと今終わってD・Dの怖さが分かったところです。もう自宅で一切アムウェイは使いません。」ということでした。
ところが後半に来た学生の中に、家でアムウェイを使っている男子学生がいて、「こんな筈はない。女のすることは信用できない」と言うひどい差別意識で、自分もD・Dを選びました。そしてその結果は当然前の女子学生と同じで、ガックリしていたということでした。
D・Dについては、その売り方にも問題があります。B5版くらいの鏡の上に2箇所油をたらし、一方には8倍に薄めたD・D(8倍に薄めて使えと言っています)をかけて指で捏ね、水をかけるときれいに油が落ちる事を見せておいて、もう一方の油には国産台所用合成洗剤の原液をかけ、指で捏ねると白いネチネチのものになり、水をかけても落ちない事を見せます。これは詐欺です。水が無ければクリーム状になり、水をかけたくらいでは取れません。合成洗剤のボトルの裏に書かれている通り、(水1リットルに1.5cc)約600倍に薄めてかけてやれば、そのままできれいに油は落ちます。
臨海に頼んだ洗剤の中に、洗剤ではないけれど前にも書いた避妊フィルム(マイルーラ)も入れておきました。私はカキで実験していたので、ウニでもして欲しかったのです。これは教授が女子学生に渡したのですが、実験の結果があまりに酷いので、実験した学生が真っ青になっていたそうです。もしかしたら彼女は使っていたのかも知れません。
※このコーナーでは、石川貞二さんの文章をそのまま掲載しています。当「石鹸百科」とは異なる見解が含まれていることがあります。