洗濯槽にはびこった黒カビ退治のすさまじい効果が動画によって拡散され、一躍有名になった過炭酸ナトリウム。
使用後は炭酸ソーダと酸素、水という無害な物質に分解。「混ぜるな危険」の心配無し。生分解不要。環境への負荷が低い。それなのに殺菌漂白剤として優秀。至れり尽くせりです。
しかし、他のナチュラルクリーニング洗剤と同じく、過炭酸ナトリウムも使い方を間違えると洗浄力ががくんと落ちます。特に、混ぜないで欲しいのは「界面活性剤」です。
過炭酸ナトリウムと界面活性剤は相性が悪い
洗濯槽クリーナー
過炭酸ナトリウムが主原料の洗濯槽クリーナーの中には、界面活性剤を配合して大量の泡を発生させて高い洗浄力をアピールするタイプがあります。
しかし、洗濯槽の汚れやカビを落とすのは過炭酸ナトリウムから発生する活性酸素(殺菌漂白成分)です。発泡は活性酸素が働いた結果に過ぎません。それを、泡が立つほど良く落ちると勘違いして、あるいは良く落ちると演出するため、界面活性剤を配合している製品が多く見受けられます。
界面活性剤は過炭酸ナトリウムの酸化力を助けるのではなく、むしろ、過炭酸ナトリウムから発生する活性酸素が界面活性剤を分解することに無駄遣いされ、肝心の洗濯槽の汚れやカビがその分落ちなくなります。
カビ取り
過炭酸ナトリウムの使い方で、過炭酸ナトリウムだけで、また、重曹や粉石けんと混ぜてペーストにして、カビや汚れ部分に塗りつける方法がよく紹介されています。
しかし、いずれも過炭酸ナトリウムの正しい使い方とはいえません。その理由は、以下の通りです。
- 過炭酸ナトリウムが酸化力を発揮する温度が考慮されていない
- 壁などに効果的に塗りつけることのできるペーストにはならない
- 石鹸に混ぜると、カビや汚れだけでなく石けんにも酸化力が奪われる
- 重曹(pH8.2)は過炭酸ナトリウム(pH10.5)のpHを下げ、酸化力を下げる
過炭酸ナトリウムの酸化力は、pHと温度が大きく影響します。詳しくは「 pHと過炭酸ナトリウム(酸素系漂白剤)の漂白効果」をご参照下さい。
食器洗い機用洗剤
食器洗い機用洗剤にはもともと界面活性剤は不要です。アルカリ性の熱い湯が吹き付けられる力と過炭酸ナトリウムの酸化力、この2つで充分に汚れが落ちるためです。
しかし、製品によっては界面活性剤が配合されています。過炭酸ナトリウムが配合された製品の場合にはその界面活性剤が過炭酸ナトリウムの酸化力を無駄遣いし、洗浄力を下げてしまいます。
「食器の汚れは落ちているけれど庫内が臭い」という声がよく聞かれます。この原因の一つは配合された界面活性剤が製品の洗浄力を落としているためだと推測されます。
実験:界面活性剤が過炭酸ナトリウムの酸化力に与える悪影響
石鹸などの界面活性剤が過炭酸ナトリウムに与える悪影響について、実験で確かめてみました。
◆実験方法
- 40℃の湯1Lに過炭酸ナトリウム10gを溶かす(A)
- 別容器の40℃の湯1Lに、石鹸(界面活性剤)入りの洗濯槽クリーナー10gを溶かす(B)
- AとBをそれぞれ5分放置し様子を観察する
Aは過剰に泡立つことなく、安定して酸素を出し続けています。これは過炭酸ナトリウムが分解する対象がないためです。一方、Bは泡の層ができています。これは、過炭酸ナトリウムが界面活性剤などを分解した結果できたものです。
洗濯槽クリーナーBは自らの配合成分である界面活性剤(石鹸)に過炭酸ナトリウムの活性酸素を奪われた形です。奪われた活性酸素の酸化力は文字通り泡と消え、洗濯槽クリーナーとしての洗浄力は低下します。
洗濯機メーカーの見解
大手家電メーカーの純正の洗濯槽クリーナーには界面活性剤は配合されていません。成分は次亜塩素酸ナトリウムと錆防止剤としてのケイ酸塩のみです。このことが示すように、家電メーカーも洗濯槽クリーナーに界面活性剤を混ぜることには否定的です。
例えばP社製洗濯機の取扱説明書の「洗濯槽クリーナーで洗う」のページには「市販の界面活性剤入りの洗濯槽クリーナーは、泡立ちが多いために途中で排水し、十分な効果が得られない場合があります。」と注意書きがあります。(2018年9月現在)