目次
石鹸はお風呂、合成洗剤は洗濯、界面活性剤は……?
「石鹸とは、石鹸置きに置かれているアレ。大抵は四角い形をしている。」
「合成洗剤とは、スーパーでよく売られている家事用の洗剤。洗濯や皿洗いや掃除に使う。」
「界面活性剤とは合成洗剤のこと。」
何となくこんなイメージがありますが、実はそのような形で分かれているのではありません。
界面活性剤とは
混ざり合わない物を混ぜる働きをする物
界面活性剤(surfactant)とは、2つの物質の境にある「界面」に作用し、その界面の性質を変える物質のことです。
例えば水と油は本来なら混じり合いません。混じり合わない水と油の境目には両者の境界の面、即ち「界面」が存在しています。
界面活性剤はこの界面に作用する事が出来ます。何故なら、界面活性剤は水と馴染める部分(親水基)と油脂と馴染める部分(親油基)の両方をその分子中に持っている為です。
界面活性剤が水と油の界面に作用すると界面の性質は変化します。その結果、本来は混じり合わないはずの水と油が混ざるのです。(乳化作用)
石鹸は界面活性剤
石鹸もこの界面活性剤の仲間です。
合成洗剤に主に使われているのは「合成界面活性剤」です。合成界面活性剤は、近代になり人の手で作り出された(合成された)ものです。
「界面活性剤が肌に合わないので石鹸を使う」という表現を時折見かけますが、これは正しくは「合成界面活性剤が肌に合わないので石鹸(という別の種類の界面活性剤)を使う」となります。
天然に存在する界面活性剤もあります。代表的なのは大豆サポニンや卵黄に含まれるレシチンなどです。
石鹸とは
石鹸の定義
石鹸は先に述べたように界面活性剤の一種です。基本的には、動植物から取れた油脂をアルカリで煮る事で作られます。
使用するアルカリの種類によって、石鹸は2つに大きく分けられます。
- 脂肪酸ナトリウム(ソーダ石鹸)
-
油脂を水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)で煮たもの。固形石鹸ができる。粉石鹸は固形石鹸を砕いて作る。
- 脂肪酸カリウム(カリ石鹸)
-
油脂を水酸化カリウム(苛性カリ)で煮たもの。液体石鹸になる。
石鹸の定義方法はこの他にも幾つかありますが、当サイトでは特別な断り書きがない限りは上記の2種類のみを「石鹸」と呼びます。
尚、製品の形だけで石鹸と合成洗剤を見分けることはできません。どちらも固形・粉・液体のものがある為です。
石鹸の始まりは紀元前3000年前
石鹸の歴史は紀元前3000年頃に始まったと言われます。当時、メソポタミアのシュメール人も石鹸を使っていたらしく、楔形文字で石鹸の製法が書かれた粘土板が残されています。
8世紀には工業的に生産
8世紀には南ヨーロッパで業者による石鹸製造が行われるようになり、手工業的な石鹸製造業が各地で発達しました。
さらに飛躍的に石鹸工業が発展したのが18世紀末。工業的にアルカリを製造できる方法(ルブラン法)が発明されてからです。
このように、石鹸は紀元前から今日に至るまでの5000年もの月日を人類とともに歩んできました。
合成洗剤とは
合成洗剤の定義
合成洗剤とは、洗浄成分に合成界面活性剤を使っている洗剤の事です。石鹸と同じく、粉・固形・液体状のものがあります。
通常、合成洗剤には、合成界面活性剤のほかにさまざまな副原料が配合されます。(例:酵素、蛍光増白剤、再汚染防止剤など)
合成界面活性剤の始まりは19世紀
合成界面活性剤を作る研究は19世紀に始まります。しかし、その頃作られた合成界面活性剤は洗剤としては使われず、主に染料の助剤として使われました。
石炭から合成洗剤
その後、1917年にドイツで世界初の合成洗剤が石炭から作られました。第一次大戦下にあったドイツでは食用油が不足していたので、それ以外のものから洗剤を作る必要があったのです。
この洗剤は洗浄力が今ひとつで戦争が終わると廃れましたが、これをきっかけに合成洗剤の研究が進みました。
本格的な合成洗剤の普及
本格的な合成洗剤は第二次世界大戦中のアメリカで作られました。ABSという合成界面活性剤を使ったもので、これは戦後急速に普及しました。
今日では更に様々な合成界面活性剤が発明されています。そして洗濯、食器洗い、身体洗い、シャンプー、歯磨きなどに広く使われています。
合成界面活性剤の役割と問題
19世紀に普及した石鹸は人々の衛生環境を向上させました。20世紀に発明された合成洗剤も、その点では同じ働きをしています。
ただ、合成洗剤は水環境の問題や安全性についての議論も引き起こしています。
人間と共に5000年を過ごしてきた石鹸に比べると、合成洗剤の歴史は浅いと言えます。合成洗剤を何世代にも渡り使い続けた時、環境や生き物にどのような影響があるのかまだ誰も知りません。
合成洗剤を使う時にはこれらについても少し心に留めておきたいものです。